子どもの自立・自己規律心が育つ家庭環境をつくる親の学び場
  1. 親業訓練とは
  2. 親業訓練の理念と背景

親業訓練の理念と背景

世界中で学ばれ続ける人間関係の普遍的原理

親業訓練の理念と背景
親業訓練(P.E.T)は、親教育のパイオニアとして約60年前にカウンセリングの本場アメリカで誕生しました。
ここでは、ゴードン博士が親業訓練をつくった背景と、歴史を紹介します。

初心者の親のために作られた、問題を予防・解決のための人間関係の技法

青少年の心理療法をする中で気づいた、親への教育

トマス・ゴードン博士はセラピストとして実際に問題を引き起こした青少年の心理療養を行っていました。

大人たちは「問題を起こした子どもを更正させよう」としたのですが、実際に博士のもとに連れてこられた子どもたちの言い分は、まったく逆。


ゴードン博士は、「若者たちは正常で健康、実際に問題をかかえ、カウンセリングが必要だったのは親や先生」だと気づきました。


しかし親や先生に、自分たちの方がセラピーや治療が必要だとわかってもらえませんでした。なぜなら実生活においては極めて上手く機能しているからです。 


若者もその親もどちらも治療を受ける気もなく、実際受ける必要もない状態。しかし、これらの家庭では治療を受ける必要はなくても、お互いに調和を保ちながら生活をすることができないでいるのは明らかでした。 

  • 率直で正直なコミュニケーションの方法、
  • お互いの欲求を尊重していることを表現する方法、
  • 対立を友好的に解決する方法、

など、人間関係に不可欠な技術を身に付けている人がほとんどいないことに気づいた博士は、精神病理学上の問題でなく、ふつうの人間関係の問題としてとらえ直し、独自のプログラムを作ることを思い至りました。


民主的な家庭づくりのための親のリーダー訓練 

博士はもともと企業の生産性を向上させる新しいリーダーシップを研究し、具体的な訓練プログラムを開発していましたが、企業のタテ社会の関係が、親子の関係に類似していることに気が付き、当時開発中だった「リーダー訓練法」を親の教育にアレンジすることを思いつき、親に子への適切な接し方を教える訓練が始まりました。


来談者中心療法を創始したカールロジャース博士 (1902〜1987)のカウンセリング理論の後継者の一人として、ロジャース博士が提示した「傾聴」の姿勢を、誰もが使えるよう「アクティブリスニング(能動的な聞き方)」としてシンプルでわかりやすく落とし込みました。

さらに、問題解決の手法(第3法)と、自己一致のためのアイメッセージ(自己表現)、すべてを統合するツール(行動の四角形)を加え、1962年にP.E.T.は完成しました。 

親はしろうとである

親は非難されるが訓練は受けていない。何百万という新しい父親や母親が毎年生まれ、人間の仕事の中でもいちばんむつかしい仕事につく。ほとんど何も自分でできない小さな人間の肉体的、精神的健康に全責任を負い、生産的、協調的でなにか貢献のできる社会人にそだてあげるという「親業」に。

これほど困難で、能力や努力を必要とする仕事がほかにあるだろうか。しかも、そのための特別な訓練を受けた親が何人いるだろう。

親業者のためにどんな訓練プログラムがあるというのか。親業を効果的に果たすために必要な知識や技能を、いったいどこで手に入れたらよいのだろう。

(書籍「親業」トマスゴードン著より)

瞬く間に全米に広がり全国的な運動へ

P.E.T.は瞬く間に全米に広がり、青少年を持つ親を中心に100万人以上が受講し、1975年3月14日付のニューヨークタイムス紙によれば「全国的な運動」と評価されるまでになりました。

親業訓練の指導者も全米で5000人にのぼり、「親業訓練」と同じ理論で開発された「教師学」はニューヨーク州その他で教育免許の正式な単位のひとつに加えられています。

ゴードン博士は1998年、長年の心理学の分野での功績が認められ全米心理学財団からゴールドメダルを授与されました。また、ノーベル平和賞にも3度も繰り返しノミネートされています。
トマス・ゴードンは、親密で永続的な人間関係を築き維持していくための1つのモデルを創り上げた。人間関係についての抽象的な概念を、具体的な行動の技法(スキル)という形に変えそれを一般大衆の手に届くものとしたことによって、彼はまさに“心理学を人々に贈った”と言える。彼は当初、組織内での民主的なリーダーシップに必要な技法を開発した。それが後に、親、教師、夫婦、医療関係者、若者たちにも同様に効果のあることが証明された。ベストセラーになった彼の著書や、認定トレイナーによる世界的なネットワークは、27カ国におよぶ何百万人もの人々に、問題を予防し解決する道具を提供してきた。また、その人間関係の技法は、数え切れないほどのトレーニングプログラムの先駆けともなったのである。(ゴールドメダル受賞表彰状の文面より)

ゴードン博士のインタビューより〜効果的な親子関係のために知識と技能を〜

 

「私は17年前に、問題児は問題親がつくる、つまり 子どもの問題は親に責任があるのだ、ということに気づいて、それまで子どもの精神療法を行っておりましたのを、親に対する教育へ転換いたしました。(中略)私の親子関係についての考え方をひとつ紹介させていただくと、私は、たとえ親子関係であっても、親と子という二人(または三人)の 全く独立した人格をもつ人間同士の関係 である、と見るべきであって、絶対に子どもを親の所有物と考えてはならないと思います。 子どもの問題を親が自分の問題としてしまっているところに、今日の親子関係のひずみの大きな原因があります。 親は子どもの援助者に徹するべきであって、決して子どもの問題の解決者や決定者になるべきではないと思います。 子どもの援助者になることによって、子どもは自ら自立性を育て、また他人への思いやりも育てていくのです。 

日本でも、最近子どもの問題が重要な社会問題になりつつあると聞いていますが、子どもが非行や暴力行為に走ってしまう以前に、実は家庭での親子関係の不健全さが影響している場合も多いものです。子どもに必要な時に十分な愛情を与え、必要な時に十分自律的に行動できるような訓練がされていない ということではないかと思います。」

1981年来日記者会見およびインタビュー 月刊「教育の森」81年11月号より


日本でのゴードンメソッドのあゆみ

日本国内で45年の実績

日本では、1979年に最初の講座が行われました。翌80年3月には 親業訓練協会が設立されました。2010年までに受講生数が120,000人を超えました。
受講生は親だけでなく、小・中学生、20代の独身者、70代の孫を持つ世代まで幅広い方に受講されています。約1300人以上のインストラクターが40年間にわたり各地で講座・講演を行ってきました。

親業訓練協会顧問一覧

過去に顧問として在職されていた先生のお名前です(〇は2017年現在の顧問)協会誌などに対談が掲載されていました。
近藤千恵  元親業訓練協会理事長
  東 洋  東京大学教授・学習心理学2016年12月13日没
柏木恵子  東京女子大学教授・発達心理学
  井内慶次郎  日本視聴覚教育協会会長・法学 2007年12月25日没
  近藤邦夫  元東京大学教授・教育学
詫間武俊  東京国際大学教授・心理学
  土橋信男  北星学園大学名誉教授・教育行政科学2012年7月7日没
  花沢成一  聖徳大学教授・臨床心理学
  平井信義  大妻大学名誉教授・児童心理学2006年7月7日没
平木典子  日本女子教授・臨床心理学
  星野 命  国際基督教大学名誉教授・心理学
本田恵子  早稲田大学教授・臨床心理学
牧野カツ子  お茶の水女子大学・教育学


法務省保護局「保護者のためのハンドブック」推薦

最近では2015年法務省保護局が発行する「 保護者の為のハンドブック〜よりよい親子関係を築くために〜」に「コミュニケーションで親子の「心のかけ橋」をかける具体的な方法」として親業講座が紹介されています。
家庭環境の安定は大変重要であり,そのためには少年と保護者との間でのコミュニケーションがうまくいき,親子の関係が良好に保たれることが必要です。法務省保護局では,非行をした子どもの親として悩んでおられる保護者の方々の参考としていただくために,子どもとのコミュニケーションを図る方法などを記載したハンドブックを作成しました。このハンドブックは,保護観察を受けることになった少年の保護者に配布するなどして活用しますが,保護観察を受ける少年に限らず,御自身の子どもの非行や問題行動に悩む保護者の方々にも,親子のコミュニケーションをより良くする上で参考になると思いますので,是非御覧ください。(法務省保護局HPより転記)

アンガーマネージメント研究会

早稲田大学教育学部の教授で アンガーマネージメントの権威であるの本田恵子教授は親業訓練協会の顧問をつとめられ、ご自身の主宰される アンガーマネージメント研究会でも親業訓練が提供されています。

多くの学校、保育園が園ぐるみで採用

親業ゴードンメソッドを園ぐるみ、行政ぐるみで取り組む事業も多く出てきました。行政と住民の自主的な組織から講座が開設されたそうです。特に人間関係や信頼関係を重視する園や学校、保護者支援の視点でも、ゴードンメソッドが採用されています。職員や保護者の必須教育として、子ども達の心を育てる施設、環境も誕生しています。


ゴードン博士が提唱する新しい人間関係とはどんなものなのか?

わかりやすく伝えて欲しいという要望にこたえて、博士は「私の人間関係に関する信条(クレド)」を残しました。

タテの階級になりやすい人間関係を、真の平和のために、何をめざすのか?良い人間関係とはどのようなものか?

ゴードン博士の哲学やビジョン、めざすところがわかりやすく定義されているのがこの「クレド」です。

皆さんにも紹介しますね。
 

あなたと私は、私が大切に思い継続したいと願う人間関係をもっています。

 

でも、私たちはそれぞれ別々の存在で各々が固有の欲求をもち、その欲求を満たす権利を各々がもっています。

 

あなたが問題を体験しているときに、私はあなたが自分で問題を解決するように支援するため、真の受容とともにあなたに耳を傾けます。

 

私はあなたが、たとえそれが私のとは異なるものであっても、あなた自身の信条や価値観を選ぶ権利を尊重もいたします。

 

あなたの行動が私の欲求を妨げるとき、私はあなたにいかに私が影響を受けているかを正直にオープンに告げます。

 

それは私が非受容と思うあなたの行動を、あなたが変えようと努力することを信頼してそうするのです。

 

また、私があなたにとって受け入れられない行動をしたとき、私はあなたがその行動によっていかに影響されているかを正直にかつオープンに告げてほしいと願います。

 

そうすれば、私が変わる機会がえられるからです。

 

対立があるときに一方が相手の犠牲の上に勝とうとすることなくその対立の一つ一つを解消することを約束しましょう。

 

私は、あなたがあなたの欲求を満足させる権利を尊重しますし、同時に、私自身についてのその権利も尊重します。

 

だから、私たち双方に受け入れられる解決策をいつも探すことにしましょう。

 

あなたの欲求は満たされ、私のもまた満たされるでしょう。

 

どちらも負けません。

 

両方が勝つのです。


したがって私たちの関係は健康な関係で、お互いがなることができるものになる努力ができ、お互いに対する尊敬と愛と平和とともにいつまでも親しくつきあいつづけられるのです。


You and I are in a relationship which I value and want to keep.

We are also two separate persons with our own individual and needs.

So that we will better know and understand what each of us values and needs,let us always be open and honest in our communication.

When you are experiencing a problem in your life,I will try to listen with genuine acceptance and understanding in order to help you find own solutions rather than imposing mine.

And want you to be a listener for me when I need to find solutions to my problems.

At those time when your behavior interferes with what I must do to get my own needs met,I will tell you openly and honestly how your behavior affects me,trusting that you respect my needs and feelings enough to try to change the behavior that is unacceptable to me. Also,whenever some behavior of mine is unacceptable to you,I hope you will tell me openly and honestly so I can try to change my behavior.

And when we experience conflicts in our relationship,let us agree to resolve each conflict without either of resorting to the use of power to win at the expense of the other's losing.

I respect your needs,but I also must respect my own. So let us always strive to search for a solution that will be acceptable to both of us.Your needs will be met,and so will mine-neither will lose,both will win.

In this way,you can continue to develop as a person through satisfying your needs,and so can I.Thus,ours can be a healthy relationship in which both of us can strive to become what we are capable of being.And we can continue to relate to each other with mutual respect,love and peace.

Thomas Gordon, Ph. D., Founder

 

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